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また会う日まで [日記]

 船は行ってしまった。地上で見ていた者には、まるで船がすうっと消えてしまったように見えた。


「あっけないわねぇ・・・。」

 そう呟いたシシィが涙を拭った。

「きっとまた会えるわ。」

 そう言ったのは、ケイリア。彼女はエベロンのエルフだ。シシィ達ドラウの娘達は、彼女とはあまり折り合いがよくない。もちろん表だって喧嘩するようなことは今までなかったのだが・・・。

「そうね・・・。」

 ケイリアの言葉に、素直にそう答えられたことに、シシィは自分で驚いていた。このエルフはランフィアのように、自分の力で道を切り開いてきたのだ。ドラウだエルフだという種族の括りが一体何の意味を持つ?大事なのは彼女が仲間であること、それはいつもカーナ達が言っていた言葉だった。

「いつかカーナ達が戻ってきたとき、何もすることがないくらいこの地が平和になっているように、私達ががんばらなきゃね。」

「そうよね。めそめそしていたら怒られちゃうわ。」

 エルディーンが肩をすくめて、シシィの肩を叩いた。

「お前達、帰る家はまだあるのか?」

 長老が尋ねた。

「ええ、宿屋のマスターがそのまま使ってくれていいって」

「なるほど。では一つお前達に言っておこう。今のお前達にはカーナやリゼルのような後ろ盾は何もない。だが、私はカーナ達に約束した。お前達には目をかけておこうと。とは言っても、それはあくまでも、お前達にそれだけの価値があるならばの話だ。それはわかるな?」

「もちろんよ。」

「私の仕事は今まで通り、見込みのある者には目をかけ、ない者は切り捨てる。この地にいる冒険者はお前達だけではないのだ。だから、お前達には何が何でも力をつけてもらわなくてはならぬ。この地の平和はまだまだ遠い。いくらでも仕事はあるはずだ。今までカーナ達から受けた教えを、今こそ役に立てるときだ。私はここで、それをしかと見届けよう。」

 激変の時を迎えるのは、エベロンとて同じこと。次があるなら、その時には笑って酒を酌み交わしたいものだ、もっともあの娘達はいずれ劣らぬ酒豪だそうだが・・・。

 冒険者達は帰っていった。だが、ドラゴンの驚異も、エラドリンの一族の受難も、未だ去ってはいない。彼らはなおいっそうこの地に残る冒険者達を鼓舞し、人材を集めるだろう。その中にあの娘達が入ってくれれば、言うことはない。


「行ってしまったのですね。」

 長老の隣で仕事をしている職人が寂しそうに尋ねた。

「うむ、仕方あるまい。あの娘達なら、きっとうまくやるさ。」

「そうですね。彼女達に次会えるまで、私達はこの街を守り抜きましょう。」

「そうだな・・・。」

 エルフは長生きだ。きっとまた会える。あの人間のクレリックだけは・・・もしかしたら会えないかも知れないが・・・

「いや、きっと会える。そう信じなければな。」

 今はただ、彼女達を信じることしか出来はしないのだから。



「部屋の掃除しなきゃね・・・。」

 帰りの道すがらぽつりと呟いたのはオディール。いなくなった姉妹達の部屋を片付けなくてはならない。

「そうねぇ。イルマディアの部屋なんてぐっちゃぐちゃよ。」

 ため息と共にそう言ったのはエルディーン。

「手伝うわよ。きれいにしておかないと、もしかしたらシシィやオディールの活躍を見て、一緒に仕事をしたいって人が来るかも知れないわ。」

 そう言ったのはケイリアと同じエベロンのエルフ、フラッセ。

「そうねぇ。みんなでかからないと終わらないわよ、多分。いつまでも掃除ばかりしていたら、それこそ力をつけるどころじゃなくなるもんね。」

「そうよねぇ。みんなでやりましょ。」

 いつのまにか、ドラウもエルフもみんな一緒に笑い合っていた。種族の違いなんて意味がない、大事なのは仲間であると言うこと。

「あ、今なんか光らなかった?」

 不意にナイアードが空を見上げていった。

「え、どこどこ?」

 みんな一斉に空を見上げる。その時ふわりと風が吹きすぎて、姉妹達の頬を撫でた。

・・・いってらっしゃい、がんばってね・・・

 毎朝送り出してくれたカーナ達の声が、聞こえたような気がした。

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