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別れの時 [日記]

 最後になんて言おうか、それをずっと考えていた。

 ありがとう

 さようなら

 げんきでね

 どれも言えそうで、そしてどれも言えそうにない、結局決まらないままに朝を迎えた。



 今日はカーナ達がトーリルへと戻る日。他にもトーリルに渡る冒険者は多く、プレーン間移動用の船がハーバーに到着したところだ。

「みんな着替えた?こっちのものはなんにも持っていけないから、気をつけてね。」

 カーナが心配そうに仲間に言う。トーリルへと帰るのは、ミン、カーナ、リゼル、ラフィーネ、シャンティア、ノイラ。そしてエベロンのエルフ、ランフィアと、ドラウのイルマディア。

 冒険者達が自分の家に帰る、ただそれだけのことなのに、なんとドラウの長老が来ている。言うまでもなく、長老の心配はイルマディアだ。

「イルマディアのことはよろしく頼むぞ。」

「長老、何だか娘を嫁に出す父親みたいよ。」

 カーナが笑った。

「そうそう、長老はね、イルマディアのことがすごく心配なの。」

 シシィとオディールは他人事のように笑っている。

「まったくお前達は心配ではないのか!?イルマディアが遠いところに行ってしまうと言うのに!」

「あら、行かせたくないなら行かせないって、長老が自分で言わなきゃ。」

「そんなことはない!」

「大丈夫よ。イルマディアもずいぶんと力をつけてきたわ。向こうでもしっかりやっていけるわよ。」

 そう言ったのは、バードとしては先輩のシャンティア。

「私とは違う道を選んだけど、彼女はそのほうがいいと思うわ。なんと言っても、歌が強烈だしね。」

「強烈・・・なるほど、ものは言いようだな・・・。」

 複雑な顔で長老がうなずいた。「音痴のイルマディア」健在なりと言うことか・・・。

 そのイルマディアも、さすがに今日は神妙だ。仲間のドラウ達と手を握りあい、「元気でね」と泣き出しそうな顔で別れを告げている。

「まったく・・・あの娘のあんな顔を見る日が来ようとはな・・・。」

 いつだって笑っていたイルマディアの泣き顔を見て、長老もさすがに涙腺が緩みそうになった。

「そろそろ出発です。ご乗車ください。」

 エベロンにはとうていいないような、妙に丁寧な船長が降りてきた。別れの時が迫っている。

「みんな元気でね。きっとまた来るわ。」

 1人ずつ、みんなと握手を交わし、船に乗り込んだ。

「元気でな」

「がんばってよ!」

「また会えるよね!?」

 手を振る仲間達の顔をみているうちに、カーナの口から出た言葉は、

「みんな、またね!!」

 扉が閉まり、みんなの顔が遠ざかる。

「では出発です。」

 プレーン間の移動船は、エンジンも何もない。ふわりと浮いて、やがて時間の流れを飛び越える。エベロンの地はあっという間に見えなくなり、窓の外は闇に閉ざされた。


「またね、なんて、会えるかどうかもわからないのにね・・・。」

 窓の外の闇を見つめながら、カーナが呟いた。

「会えるわよ。そう信じましょうよ」

 同じように窓の外を見つめているリゼルがぽつりと言った。

「会えるわ。いいえ、絶対の会うの。私はいつか必ずエベロンに帰るから。」

 そう言ったのはイルマディア。ランフィアもうなずいている。

「私達は片道切符を買ったつもりはないわ。無期限で使える帰り道の切符も持って出てきた、そう思ってるのよ。」

「そうね・・・。」

 ありがとうも、さようならも、きっといつでも言える。だから今は言わない。

「みんな!!またね!」

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